かなり傷んだ古民家だったため、床は抜ける、雨漏りはする。「どうしていいか途方にくれていると、いつの間にか誰かがやって来て、助けてくれるんですよ」と、大らかに笑う飯島さんは言葉を続けた。「この周辺に暮らす人たちは自分たちで屋根を替える。床も戸も自分たちで直す。一人で出来ないことは、共同体で一緒になってやって来たんですね。島根には、まだそんな関係が残っているんですよ」。
この周辺では地区がひとつの家族のような付き合い方をしている。「はて、どうしたもんだろう」と考えながら、みんなでお茶を飲んで話をしていると、少しずつ解決の形が見えてくる。誰かが誰かを呼んできてくれる。古民家に関わるようになってから、だんだんと輪が広がって、かなりの数の人たちがつながっていった。
「人との出会いは本当にすばらしいものだと思います。そのとっかかりに、この古民家がなってくれたような気がします」。
近所の人たちだけでなく、仲間もこの古民家に来ると何かしら参加できることがある。気が付くと台所で洗い物をしていたり、展示会の車の誘導係をしていたり。「いろんな人が少しずつ関わってくださって、どうやって感謝したらいいか分からないくらいです」と飯島さん。
古民家には人の手が必要なのだ。まるで、人が人を必要とするように。必要とする人と必要とされる人。そこに、小さな絆が生まれる。そして、小さな絆は一+一を三にも四にもしてくれる。「この家は永遠に完成しないでしょう」と言って、飯島さんがほほえんだ。小さな絆がある限り、この古民家には手が加えられ、これから先もずっと生き続けることだろう。
衣食住は人の基本。「住」、それは生きることでもある。現代は、その「住」の部分を人にすべて明け渡していることに気がついたと、飯島さんは語る。そして、古民家を直すことで、生活することへの主体を少しずつ「取り戻していった」とも付け加えた。
飯島さんのこれからの夢は、この古民家を常設ギャラリーにして、陶芸を中心とした物づくりをしていきたい。ステンドグラスを学んでいた娘さんもUターンした。この古民家の一角に、自然に囲まれたカフェをオープンしたいと、二人の夢は広がっている。
ギャラリー&カフェの名前は「木空風」。名前の由来は、前庭に立っている楓の木の間から見えた月が、とても美しかったから。「木」と「風」の間に「空」を入れて「木空風」となった。自然を感じながら、癒しの空間でありたい。そんな願いが込められている。
「そこの縁側に座って、ひがな一日、自然を眺めてボーっとしていることがあります。ここは、そんなスペースにしたいですね」。
飯島さんは可愛い古民家だけでなく、かけがえのないものを手に入れたようだ。